2015.11.16 静岡県内における不動産証券化

 平成27年9月に発表された都道府県地価調査では、全国的に地価下落幅が縮小し、三大都市圏においては上昇が続いており、静岡県内においても下落幅は縮小しております。
 一方不動産投資市場をみると、ここ数年においては取引件数の増加や、利回りの低下、リートのIPO等活性化が観られます。

投資市場活性化の背景

 不動産投資市場におけるメインプレイヤーである投資法人や不動産ファンドは、その収益の殆どを配当することにより、税制の優遇(損金算入等)を受けている為、ファイナンス面での運用、特に資金調達環境が投資判断に影響すると言われています。安倍政権発足後、アベノミクスによる量的緩和政策により、増資・借入の資金調達環境が改善し、投資が活性化されていると言えます。
 また、企業業績も改善され、東京オリンピックの招致決定等ファンダメンタルズに明るい材料がみられることから、投資意思決定にプラスに働いているととともに、投資収益の柱である賃料収入や空室率は、リーマンショック後の賃料下落から当時の水準まで回復していないことから(首都圏の空室率は改善している)、賃料のアップサイドを見込んだ低利回りでの取引が観られます。

アセットの特徴

オフィス

 不動産投資の投資アセットの主流であり、2001年にスタートしたJ-REITも、オフィス特化型の2銘柄から始まっています。レジデンス(住宅)に比べ、市場規模が大きく、テナントが法人で有る為、景気動向による賃料収入の増減が大きい傾向にあります。

レジデンス

 需要層に厚みがある為、オフィスに比べ景気変動による家賃増減が小さく安定的と言えますが、好景気時の恩恵を受けにくいという特徴があります。一般的に投資市場ではワンルームマンションが好まれます。また、新規の供給が多く、周辺に新築物件が供給された場合には競争力が低下する懸念があります。

商業施設

 下記ホテルやヘルスケア施設と共にオペレーショナルアセットと言われ、都心型と郊外型に大別されます。商業施設では運用手腕により、収益性が左右されるといわれます。テナントの賃料負担力が重要な鍵となるため、適切なテナントミックスや販促活動を行う必要があります。都心型においては、一定の賃料相場が形成されていますが、一部売上歩合の賃料設定を行うケースも散見されます。また、郊外型では一棟貸しが多く、売り上げを原資とする賃料負担力を見極めるために周辺競合店の調査を始めとする市場調査が重要になります。

ロジスティクス・インフラ系

 日本では不動産投資対象としては、馴染みは薄いものですが、米国等においては年金資金を中心に、活発に投資が行われており、近年日本でも人気が高まっております。BTS型の一棟貸し物件とマルチテナント型に大別されます。賃料増減が少なく、長期入居テナントが多い為、収入は比較的安定的と言われております。また、近時のインターネット販売等により、物流の小口化・多頻度化が進んでおり、配送拠点の重要性が増しています。地域によっては近代的なスペックを有する物件が少なく、今後の成長が見込まれるアセットです。

ホテル(旅館含む)

 典型的なオペレーショナルアセットであり、シティ・ビジネスホテルとリゾートホテルに大別されます。事業用不動産である為、従来の土地・建物の持つ価値以上の潜在価値を実現出来る可能性がある一方、景気悪化によるボラティリティが高いため、商業施設同様、テナントの賃料負担力が重要となります。賃貸借の形式としては、固定型、歩合方式、固定+歩合があり、歩合方式においてはGOPの何%又はGOP一定以上の期にはその何%といった決め方がなされています。ADRや稼働率、GOPを把握が重要であり、売上に影響する客層の分析が必要です。近時においてはインバウンドの増加によりADRや稼働率が改善されています。

ヘルスケア

 少子高齢化を向かえ、2014年11月から2015年にかけ、3投資法人が上場を果たす等、投資が活発化しています。ヘルスケアアセットは、高齢者施設・住宅と医療施設に大別され、現在のところ主に投資が行われているのは、前者となります。オペレーショナルアセットであり、立地条件等の不動産固有の要因に加え、賃料安定性を計る為には、運営者の手腕が重要となります。

静岡県内における証券化対象不動産

 現在静岡県内においては、J-REIT8物件が投資対象となっております(下表参照)。J-REIT全体の投資対象比率と異なり、ホテルや商業施設といったオペレーショナルアセットが多いのが特徴と言えます。上場リート以外では情報開示が強制されていない為、流動化法や不特法等他のスキームにより証券化されている物件もあると思われますが、全般的にやや少ない印象を受けます。
 静岡市・浜松市という政令指定都市には、オフィス、レジデンシャル等の投資が、また、富士山、温泉、大型ショッピングセンターという観光資源に加え、空港・鉄道・高速道路といったインフラも十分に整備されている県内には、ホテル投資が増える余地は十分にありそうです。

物件名 所在 用途 投資法人
三井ショッピングパークららぽーと磐田 磐田市高見丘 商業施設 フロンティア不動産投資法人
浜松プラザ 浜松市東区上西町 商業施設 積水ハウス・SIレジデンシャル投資法人
Dプロジェクト御殿場 御殿場市神場 物流施設 大和ハウスリート投資法人
リッチモンドホテル浜松 浜松市中区元城町 ホテル 阪急リート投資法人
界 伊東 伊東市岡広町 ホテル 星野リゾート・リート投資法人
リゾナーレ熱海 熱海市水口町二丁目 ホテル 星野リゾート・リート投資法人
ホテルビスタ清水 静岡市清水区真砂町 ホテル インヴィンシブル投資法人
S-FORT静岡本通 静岡市葵区本通六丁目 レジデンス サムティ・レジデンシャル投資法人

今後の展望

 既述の通り、近時の不動産市況の活性化しており、その中で既に投資エリアの中心となっている首都圏、大阪、名古屋、福岡等の大都市は利回りの低下が顕著であります。個別の不動産又はポートフォリオ全体の利回りを確保する為、今まで投資があまり行われていなかったエリアへの拡大が見込まれ、静岡県もその対象として検討される余地は十分にあると考えられます。本年11月末に予定されているいちごホテルリート投資法人のポートフォリオにも県内物件が組み入れられており、また、大手不動産会社も熱海の高級旅館を取得する等、その兆しが観察されます。
 また、企業のオフバランスを目的とした流動化や地方ファンド等の組成も、市場余地を残していると思われます。


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